フおじちゃま[#「おじちゃま」に傍点]のことは考えてもいない。
おそらく私は彼女のためにいくページか書くひまがまだあるだろう。他日彼女がそれを読んでくれて、そして十五年もたったら今日のために涙を流してくれるようにと!
そうだ、私は自分の身の上を自分で彼女に知らせなければならない。私から彼女へ残す名前がなぜ血ににじんでいるかを、彼女へ知らせなければならない。
四七
予が経歴
[#ここから2字下げ]
発行者曰――ここに該当する原稿を探したが、まだ見出せない。おそらく、次の記事が示すように、受刑人はそれを書くひまがなかったものらしい。彼が書こうと思いついた時は、もう遅かった。
[#ここで字下げ終わり]
四八
[#地から5字上げ]市庁の一室にて
市庁にて!――私はこうして市庁に来ている。呪うべき道程はなされた。広場はすぐそこにある。窓の下には嫌悪すべき人群が吠えている、私を待っている、笑っている。
私はいかに身を固くしても、いかに身をひきしめても、やはり気がくじけてしまった。群集の頭越しに、黒い三角刃を一端に具えてるあの二本の赤い柱が、河岸の街灯のあいだにつっ立っているのを見た時、私は気がくじけてしまった。私は最後の申立てをしたいと求めた。人々は私をここに置いて、検事か誰かを呼びに行った。私はそれが来るのを待っている。とにかくそれだけ猶予を得るわけだ。
これまでのことを述べておこう。
三時が鳴ってる時、時間だと私に知らせに人が来た。私は六時間前から、六週間前から、六か月も前から、他のことばかり考えていたかのように、ぞっと震えた。何だか意外なことのような感じがした。
彼らは私にいくつもの廊下を通らせ、いくつもの階段を降りさせた。彼らは私を一階の二つのくぐり戸のあいだに押し入れた。薄暗い狭い円天井の室で、雨と霧の日の弱い明るみだけがほのかにさしていた。室のまんなかに椅子が一つあった。彼らは私に座れと言った。私は座った。
扉のそばと壁にそって、司祭と憲兵らのほかになお、数人の者が立っていた。三人のあいつらもいた。
三人のうち最初のは、いちばん背が高く、いちばん年長で、あぶらぎって赤い顔をしていた。フロックを着て、変な形の三角帽をかぶっていた。そいつがそうだった。
そいつが死刑執行人、断頭台の給仕だった。他の二人はそいつに
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