「僕は、」と彼は言った、「バグラシオン夫人もダンブレー氏も知りません。まだどちらの家にも足をふみ入れたことはかつてありません。」
 その答えは無愛想だった。それでもなお男は慇懃《いんぎん》に言い続けた。
「ではお目にかかりましたのは、シャトーブリアン氏のお宅でしたでしょう。私はシャトーブリアン氏をよく存じております。なかなか愛想のよいお方です。どうだテナル、いっしょに一杯やろうか、などと時々申されます。」
 マリユスの顔はますます険しくなった。
「僕はまだシャトーブリアン氏の宅に招かれたことはありません。つまらないことはぬきにしましょう。結局どういう用ですか。」
 男はいっそうきびしくなったその声の前に、いっそう低く頭を下げた。
「閣下、まあどうかお聞き下さい。アメリカのパナマに近い地方にジョヤという村がございます。村と申しましても、家は一軒きりございません。堅い煉瓦作りの[#「煉瓦作りの」は底本では「練瓦作りの」]四階建てになっている大きな四角な家でありまして、その四角の各辺が五百尺もあり、各階は下の階より十二尺ほど引っ込んで、それだけがぐるりと平屋根になっています。中央が中庭で
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