願ったことだ。」
「そうおっしゃるだろうと思っていました。ようございます。仕返しをしてあげますから。でもまあ最初のことからしましょう。お父様、私を接吻して下さいな。」
 そして彼女は頬《ほお》を差し出した。
 ジャン・ヴァルジャンは不動のままでいた。
「お動きなさいませんのね。わかりますよ。罪人のようですわ。でもとにかく許してあげます。イエス・キリストも言われました、他の頬をもめぐらしてこれに向けよと。さあここにございます。」
 そして彼女は他の頬を差し出した。
 ジャン・ヴァルジャンは身動きもしなかった。あたかもその足は床に釘《くぎ》付けにされてるがようだった。
「本気でそうしていらっしゃるの。」とコゼットは言った。「私あなたに何かしましたかしら。ほんとに困ってしまいますわ。私あなたに貸しがありますのよ。今日は私どもといっしょに御飯を召し上がって下さらなければいけません。」
「食事は済んでいる。」
「嘘《うそ》ですわ。私ジルノルマン様にあなたをしかっていただきますよ。お祖父様《じいさま》ならお父様を少したしなめることができます。さあ、私といっしょに客間にいらっしゃいよ、すぐに。」

前へ 次へ
全618ページ中516ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング