もし難い靄《もや》の中に出没してとらえ難かった。
正直に返された委託金、誠実になされた告白、それは善良なることであった。それはあたかも雲の中にひらめく光のようなものだった。が次にまた雲は暗くなった。
マリユスの記憶はいかにも混乱していたが、多少の影は浮かんできた。
ジョンドレットの陋屋《ろうおく》におけるあの事件は果たしてどういうことであったろうか。警官がきた時、なぜあの男は訴えることをせずに逃げ出してしまったのか。そのことについてはマリユスも答えを見いだし得た。すなわちその男は脱走の身で法廷から処刑されていたからである。
次に第二の疑問が起こってきた。なぜあの男は防寨《ぼうさい》にやってきたのか。というのは、今やマリユスは炙出《あぶりだ》しインキのように、記憶が激しい情緒のうちに再び現われてくるのを明らかに認めたからである。あの男は防寨にいた。しかも戦ってはいなかった。いったい何をしにきたのであるか。その疑問に対して、一つの幻が浮かんできて答えた、ジャヴェルと。ジャン・ヴァルジャンが縛られてるジャヴェルを防寨の外へ連れてゆくすごい光景を、マリユスは今明らかに思い起こした、そし
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