そういう者はよく考えて見たまえ。自分の身を犠牲にする、自分は死ぬ、それはかまわぬ、しかし明日は? パンに窮する若い娘、それは恐ろしいことではないか。男は食を乞《こ》うが、女は身を売る。あああのうるわしいやさしい可憐《かれん》な娘ら、花の帽子をかぶり、歌いさえずり、家の中に清らかな気を満たし生きたる香のようであり、地上における処女の純潔さで天における天使の存在を証する者、ジャンヌやリーズやミミ、諸君の恵みであり誇りである愛すべき正直なる者、彼女らが飢えんとするのである。ああ何と言ったらいいか。世には人の肉体の市場がある。彼女らがそこにはいるのを防ぐのは、彼女らのまわりにうち震える諸君の影の手がよくなし得るところではない。街路に、通行人でいっぱいになってる舗石《しきいし》の上に、商店の前に、首筋をあらわにし泥にまみれてさまよう女のことを考えて見たまえ。その女どももまたもとは純潔だったのだ。妹を持ってる者は妹のことを考えてみるがいい。困窮、淫売《いんばい》、官憲、サン・ラザール拘禁所、そういう所に、あのうるわしい、たおやかな娘らは、あの五月のライラックの花よりもなおさわやかな貞節と温順と美と
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