すべきものもない。郭外も連隊も共にだめだ。われわれは孤立だ。」
 その言葉は、人々の騒々しい話声の上に落ちかかって、蜂《はち》の巣の上に落ちてくる暴風雨の最初の一滴のような結果を生じた。皆口をつぐんでしまった。死の翔り回るのが聞こえるような名状し難い沈黙が、一瞬間続いた。
 それはごくわずかの間だった。
 群集の最も薄暗い奥の方から、一つの声がアンジョーラに叫んだ。
「よろしい。防寨を二丈の高さにして皆で死守しよう。諸君、死屍《しかばね》となっても抵抗しようではないか。人民は共和党を見捨てるとしても、共和党は人民を見捨てないことを、示してやろうではないか。」
 その言葉は、すべての者の頭から個人的な心痛の暗雲を払い去った。そして熱誠な拍手をもって迎えられた。
 右の言葉を発した男の名前は永久に知られなかった。それはある労働服を着た無名の男であり、見知らぬ男であり、忘れられた男であり、過ぎ去ってゆく英雄であった。かかる無名の偉人は、常に人類の危機と社会の開闢《かいびゃく》とに交じっていて、一定の時機におよんで断乎《だんこ》として決定的な一言を発し、電光のひらめきのうちに一瞬間民衆と神とを
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