った。
その巡邏隊は、カドラン街の下にある彎曲《わんきょく》した隧道《すいどう》と三つの行き止まりとを見回ってきたところだった。彼らがそれらの行き止まりの奥に大角灯を振り動かしてる時、既にジャン・ヴァルジャンは途中でその隧道の入り口に出会ったが、本道より狭いのを知って、それにはいり込まなかった。彼は他の方へ通っていった。警官らはカドランの隧道から出てきながら、囲繞溝渠《いじょうこうきょ》の方向に足音が聞こえるように思った。実際それはジャン・ヴァルジャンの足音だった。巡邏の長をしてる警官はその角灯を高く上げ、一隊の人々は足音が響いてくる方向へ靄《もや》の中をのぞき込んだ。
ジャン・ヴァルジャンにとっては何とも言い難い瞬間だった。
幸いにも、彼はその角灯をよく見ることができたが、角灯の方は彼をよく見ることができなかった。角灯は光であり、彼は影であった。彼はごく遠くにいたし、あたりの暗黒の中に包まれていた。彼は壁に身を寄せて立ち止まった。
それに彼は、後方に動いてるものが何であるかを知らなかった。不眠と不食と激情とは、彼をもまた幻覚の状態に陥らしていた。彼は一つの火炎を見、火炎のまわ
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