であることを、思い起こした。そしてその顔を思い起こしたばかりでなく、またその名前を思い起こした。
けれどもその記憶は、彼の他の観念と同じように、おぼろげで乱れていた。それは自ら下した断定ではなく、自ら試みた疑問であった。
「あの男は、ジャヴェルと名乗ったあの警視ではないかしら?」
たぶんまだその男のために調停する時間はあったろう。しかし、果たしてあのジャヴェルであるかをまず確かめなければならなかった。
マリユスは防寨の向こう端に位置を占めたアンジョーラを呼びかけた。
「アンジョーラ!」
「何だ!」
「あの男の名は何というんだ。」
「どの男?」
「あの警察の男だ。君はその名前を知ってるか。」
「もちろん。自分で名乗ったんだ。」
「何という名だ。」
「ジャヴェル。」
マリユスは身を起こした。
その時、ピストルの音が聞こえた。
ジャン・ヴァルジャンが再び現われて、「済んだ」と叫んだ。
暗い悪寒《おかん》がマリユスの心をよぎった。
二十 死者も正しく生者も不正ならず
防寨《ぼうさい》の臨終の苦悶《くもん》はまさに始まろうとしていた。
その最後の瞬間の悲痛な荘厳さ
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