ん》はついに昇天の喜びに達したのである。
彼らふたりの魂のうちには、マリユスにあっては快楽の色に染められコゼットにあっては貞節の色に染められてる同じ歓喜があった。彼らは声低く語り合った。ふたりでプリューメ街の小さな庭をまた見に行こうと。コゼットの長衣の襞《ひだ》はマリユスの上に置かれていた。
そういう日こそは、夢幻の確実との得も言えぬ混同の日である。人は実際に所有しまた仮想する。種々想像するだけの余裕がまだ残っている。ま昼にあってま夜中のことを思うその日こそは、実に名状し難い情緒に満ちてるものである。彼らふたりの心の楽しさは、衆人の上にも流れ出し、通りすがりの者らにも喜悦の気を与えていた。
サン・タントアーヌ街のサン・ポール教会堂の前には、多くの人が立ち止まって、コゼットの頭の上に震える橙花《オレンヂ》を馬車のガラス戸越しにながめていた。
それから一同は、フィーユ・デュ・カンヴェール街の自宅に戻った。マリユスはコゼットと相並んで、かつて瀕死の身体を引きずり上げられたあの階段を、光り輝き昂然《こうぜん》として上っていった。貧しい人々は、戸口の前に集まってもらった金を分かちながら、ふたりを祝福した。至る所に花が撒《ま》かれていた。家の中も教会堂に劣らずかおりを放っていた。香《こう》の次に薔薇《ばら》の花となったのである。ふたりは無窮のうちに歌声を聞くような気がし、心のうちに神をいだき、宿命を星の輝く天井のように感じ、頭の上に朝日の光を見るがように思った。突然大時計が鳴った。マリユスはコゼットの美しい裸の腕と、胴衣のレース越しにかすかに見える薔薇色のものとをながめた。そしてコゼットはマリユスの視線を見て、目の中までもまっ赤になった。
ジルノルマン一家の旧友の多数は、皆招待されていた。人々はコゼットのまわりに集まって、先を争いながら男爵夫人と彼女に呼びかけた。
今は大尉になってるテオデュール・ジルノルマン将校も、徒弟ポンメルシーの結婚に列するため、任地のシャルトルからやってきていた。コゼットは彼の顔を忘れていた。
彼の方では、いつも婦人らからきれいだと思われてばかりいたので、もうコゼットのことも頭に残っていなかった。
「この槍騎兵《そうきへい》の話を本当にしないでよかった。」とジルノルマン老人はひとりで思った。
コゼットはこれまでにないほどジャン・ヴァルジャンに対してやさしかった。また彼女はジルノルマン老人としっくり調子が合っていた。老人が盛んに警句や格言を使って喜びを述べ立ててる間、彼女は愛と善良さとをかおりのように発散さしていた。幸福はすべての者が楽しからんことを欲するものである。
彼女はジャン・ヴァルジャンに話しかける時は、少女時代の声の調子に戻っていた。また、ほほえみを送って彼に甘えていた。
饗応《きょうおう》の宴は食堂に設けられていた。
昼間のように明るい灯火は、大なる喜びの席にはなくてならないものである。靄《もや》と暗さとは決して幸福な人々の好むものではない。彼らは黒い姿となるのを喜ばない。夜はよいが、暗闇《くらやみ》はいけない。もし太陽が出ていなければ、それを別に一つこしらえなければならない。
食堂は楽しい器具の巣であった。中央には、まっ白に光ってる食卓の上に、平たい延べ金の下飾りがついてるヴェニス製の大燭台《だいしょくだい》が一つあって、その四方の枝の蝋燭《ろうそく》に囲まれたまんなかには、青や紫や赤や緑などに塗った各種の鳥がとまっていた。大燭台《おおしょくだい》のまわりには多くの飾り燭台があり、壁には三枝もしくは五枝に分かれた反射鏡がかかっていた。鏡、水晶器具、ガラス器具、皿、磁器、陶器、土器、金銀細工物、銀の器具など、すべてが輝き笑っていた。燭台の間々には花輪がいっぱい積まれていて、至る所光か花かであった。
次の間《ま》では、三つのバイオリンと一つの笛とが制音器をつけて、ハイドンの四部合奏曲を奏していた。
ジャン・ヴァルジャンは客間の入り口の横手の椅子《いす》にすわっていて、扉《とびら》が開くとほとんどそのうしろに隠れるようになっていた。食堂にはいるちょっと前に、コゼットはふと引きずられるように彼のそばに寄ってゆき、両手で花嫁の衣裳をひろげながら深い愛敬の様子を示し、やさしいいたずらそうな目つきをして尋ねた。
「お父さま、あなたおうれしくて?」
「ああ、」とジャン・ヴァルジャンは言った、「うれしい。」
「では笑ってちょうだいな。」
ジャン・ヴァルジャンは笑顔をした。
やがて、バスクは食事の用意が整ったことを告げた。
客人らは、コゼットに腕を貸してるジルノルマン氏のあとについて、食堂にはいり、予定の順序で食卓のまわりに並んだ。
花嫁の右と左とにある二つの大きな肱掛《ひじか》け椅子《
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