に渡してきた。女の人は眠っていたから、目がさめたら見るだろう。」
 マリユスはその手紙を贈るについて二つの目的を持っていた、コゼットに別れを告げることと、ガヴローシュを救うこと。で彼は望みの半分だけが成就したことで満足しなければならなかった。
 手紙の送達と、防寨《ぼうさい》の中にフォーシュルヴァン氏の出現と、その二つの符合が彼の頭に浮かんだ。ガヴローシュにフォーシュルヴァン氏をさし示した。
「あの人を知っているか。」
「いや。」とガヴローシュは言った。
 実際ガヴローシュは、今言ったとおり、暗夜の中でジャン・ヴァルジャンを見たに過ぎなかった。
 マリユスの頭の中に浮かんできた漠然《ばくぜん》たる不安な推測は、ガヴローシュの一語に消えうせた。フォーシュルヴァン氏の意見はわからないが、おそらくは共和派だろう。そうだとすれば、彼が防寨の中に現われたのも別に不思議はないわけだった。
 そのうちにもうガヴローシュは、防寨の他の一端で叫んでいた。「俺《おれ》の銃をくれ!」
 クールフェーラックは銃を彼に返してやった。
 ガヴローシュは彼のいわゆる「仲間の者ら」に、防寨が包囲されてることを告げた。戻って来るのは非常に困難だった。戦列歩兵の一隊がプティート・トリュアンドリーに銃を組んでシーニュ街の方を監視しており、市民兵がその反対のプレーシュール街を占領していた。そして正面には軍勢の本隊が控えていた。
 それだけのことを知らして、ガヴローシュは加えて言った。
「俺《おれ》が許すから、奴《やつ》らにどかんと一つ食わしてくれ。」
 その間、アンジョーラは自分の狭間《はざま》の所にあって、耳を澄ましながら様子をうかがっていた。
 襲撃軍の方は、砲弾の効果に不満だったのであろう、もうそれを繰り返さなかった。
 一中隊の戦列歩兵が、街路の先端に現われて砲車の後ろに陣取った。彼らは街路の舗石《しきいし》をめくり、そこに舗石の小さな低い障壁をこしらえた。それは高さ一尺八寸くらいなもので、防寨に向かって作った一種の肩墻《けんしょう》だった。肩墻の左の角《かど》には、サン・ドゥニ街に集まってる郊外国民兵の縦隊の先頭が見えていた。
 向こうの様子をうかがっていたアンジョーラは、弾薬車から霰弾《さんだん》の箱を引き出すような音を耳にし、また砲手長が照準を変えて砲口を少し左へ傾けるのを見た。それから砲手
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