死ぬのは結構なことだ。コゼット、お前もまた私を愛してくれるね。私は、お前がいつもお前の老人《としより》に愛情を持っていてくれたことを、よく知っていた。私の腰の下にこの括《くく》り蒲団《ふとん》を入れてくれるとは、何というやさしいことだろう。お前は私の死を、少しは泣いてくれるだろうね。あまり泣いてはいけない。私はお前がほんとに悲しむことを望まない。お前たちふたりはたくさん楽しまなければいけない。それから私は、あの締金のない金環で何よりもよく儲《もう》かったことを、言い忘れていた。十二ダース入りの大包みが十フランでできるのに、六十フランにも売れた。まったくよい商売だった。だから、ポンメルシーさん、あの六十万フランも驚く程のことではありません。正直な金です。安心して金持ちになってよろしいのです。馬車も備え、時々は芝居の桟敷《さじき》も買い、コゼットは美しい夜会服も買うがいいし、それから友人たちにごちそうもし、楽しく暮らすがいい。私はさっきコゼットに手紙を書いておいた。どこかにあるはずだ。それから私は、暖炉の上にある二つの燭台《しょくだい》を、コゼットにあげる。銀であるが、私にとっては、金《きん》でできてると言ってもいいし、金剛石でできてるといってもいい品である。立てられた蝋燭《ろうそく》を聖《きよ》い大蝋燭に変える力のある燭台だ。私にあれを下すった人が、果たして私のことを天から満足の目で見て下さるかどうかは、私にもわからない。ただ私は自分でできるだけのことはした。お前たちはふたりとも、私が貧しい者であるということを忘れないで、どこかの片すみに私を葬って、ただその場所を示すだけの石を上に立てて下さい。それが私の遺言である。石には名前を刻んではいけない。もしコゼットが時々きてくれるなら、私は大変喜ぶだろう。あなたもきて下さい、ポンメルシーさん。私は今白状しなければなりませんが、私はいつもあなたを愛したというわけではなかった。それは許して下さい。けれど今は、彼女とあなたとは、私にとってただひとりの者です。私はあなたに深く感謝しています。私はあなたがコゼットを幸福にして下さることをはっきり感じています。ああ、ポンメルシーさん、彼女の美しい薔薇色《ばらいろ》の頬《ほお》は私の喜びでした。少しでも色が悪いと、私は悲しかったものです。それから、戸棚《とだな》の中に五百フランの紙幣が一枚
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