。
「ただ、何ですの?」
「私はもうじきに死ぬ。」
コゼットとマリユスとは震え上がった。
「死ぬ!」とマリユスは叫んだ。
「ええ、しかしそれは何でもありません。」とジャン・ヴァルジャンは言った。
彼は息をつき、ほほえみ、そしてまた言った。
「コゼット、お前は私に話をしていたね。続けておくれ。もっと話しておくれ。お前のかわいい駒鳥《こまどり》が死んだと、それから、さあお前の声を私に聞かしておくれ!」
マリユスは石のようになって、老人をながめていた。
コゼットは張り裂けるような声を上げた。
「お父様、私のお父様! あなたは生きておいでになります。ずっと生きられます、私が生かしてあげます、ねえお父様!」
ジャン・ヴァルジャンはかわいくてたまらないような様子で彼女の方へ頭を上げた。
「そう、私を死なないようにしておくれ。あるいはお前の言うとおりになるかも知れない。お前たちがきた時私は死にかかっていた。ところがお前たちがきたのでそのままになっている。何だか生き返ったような気もする。」
「あなたにはまだ充分力もあり元気もあります。」とマリユスは叫んだ。「そんなふうで死ぬものだと思っていられるのですか。いろいろ心配もあられましたでしょうが、これからもうなくなります。お許しを願うのは私の方です、膝《ひざ》をついてお願いします! お生きになれます、私どもといっしょに、そして長く、お生きになれます。あなたにまたきていただきます。私たちふたりが、あなたの幸福という一つの考えしかもう持っていない私たちふたりが、ここについております。」
「おわかりでしょう、」とコゼットは涙にまみれながら言った、「お死にはなさらないとマリユスも言っています。」
ジャン・ヴァルジャンはほほえみ続けていた。
「あなたが私をまた引き取って下すっても、ポンメルシーさん、それで私はこれまでと変わった者になるでしょうか。いや、神はあなたや私と同じように考えられて、決してその意見を変えられはしません。私が逝《い》ってしまうのはためになることです。死はよい処置です。神は、私どもがどうなればよいかを私どもよりよく知っていられます。あなたが幸福であられること、ポンメルシー氏がコゼットを得ること、青春は朝を娶《めと》ること、あなた方ふたりのまわりにはライラックの花や鶯《うぐいす》がいること、あなた方の生活は日の輝いた芝
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