尋ねるためにその朝再びジャヴェルがやってきた時には、ただブーゴン婆さんがいるきりで、婆さんはこう答えた。「引っ越しました。」
ブーゴン婆さんは、前夜捕えられた盗賊らにマリユスも多少関係があったものと信じた。そして近所の門番の女たちにふれ回った。「人はわからないものだね、娘っ児のようなふうをしていたあんな若い人がさ。」
マリユスがかく急に引っ越したには、二つの理由があった。第一には、今ではその家がのろうべきものに思えたからである。その家の中で彼は、害毒を流す富者よりもおそらくずっと恐ろしい社会の醜悪面が、すなわち邪悪なる貧民が、その最も嫌悪《けんお》すべき最も獰猛《どうもう》なる手をひろぐるのを、すぐ目近にながめたのであった。また第二には、たぶん次に起こるべき裁判に顔を出して、テナルディエに不利な証言をなさなければならなくなるだろうということを、欲しなかったからである。
ジャヴェルの方では、名前は忘れたがその青年は、きっと恐れて逃げ出してしまったのか、あるいは待ち伏せの時に家に戻りもしなかったのだろう、と推察した。それでも彼は、多少骨折ってその行方をさがしたが、ついに見つけることが
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