サン・タントアーヌ郭外をながめていた。
 サン・タントアーヌ郭外はひそかに熱せられて、沸騰しはじめていた。
 シャロンヌ街の各居酒屋はまじめで喧騒《けんそう》であった。こう二つの形容詞を並べて居酒屋につけるのは少し変に思われるかも知れないが、それは実際であった。
 政府はそこで、純然とまた事もなげに問題とされていた。人々はそこで公然と、それは挑戦すべきものかあるいは手をこまぬいて見ているべきものか[#「それは挑戦すべきものかあるいは手をこまぬいて見ているべきものか」に傍点]を論じ合った。奥の室《へや》があって、そこで労働者らに誓わした、「警報を聞くや直ちに街頭にいで、敵勢の多少にかかわらず戦うべし」と。一度誓いがなさるるや、酒場の片すみにすわってるひとりの男が「響き渡る声をして」言った、「いいか[#「いいか」に傍点]、貴様は誓ったのだぞ[#「貴様は誓ったのだぞ」に傍点]!」時としては二階に上がってしめ切った室にはいり、そこでほとんど秘密結社的な光景が演ぜられた。新加入者には、家父に仕うるがごとく仕えん[#「家父に仕うるがごとく仕えん」に傍点]という宣誓をなさした。そういうのが定まった形
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