ばくぜん》と懐抱したがために生じた、おそらくある一時のあきらめ、身分を保たんとする意志、家庭的精神、民衆に対するまじめな敬意、正直なる性質、それらのことがほとんど痛ましいまでにルイ・フィリップの頭を満たし、いかに強くまた勇敢であったとは言え、時としては国王たる困難の下に彼は圧倒されんとした。
 恐るべき分裂を、しかもフランスはかつて見ないほど真にフランス的であったから、微塵《みじん》になることではない分裂を、彼は自分の足下に感じた。
 重畳した闇《やみ》は地平をおおうていた。異常な影はしだいに近く迫ってきて、人と事物と思想との上に徐々にひろがっていった。あらゆる激情と思想とから来る影であった。早急に息をふさがれたすべてのものは、静かにうごめき発酵しつつあった。時としてはこの正直なる男([#ここから割り注]ルイ・フィリップ[#ここで割り注終わり])の本心は息を止めた。詭弁《きべん》と真理とが相交じってる空気の中にはそれほど悪気がこもっていた。人の精神は、あたかも嵐の前の木の葉のごとく、社会の焦躁《しょうそう》のうちに震えていた。電圧はきわめて高く、時々に異常なあらゆる光がひらめき出した。
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