チた。何というつもりもなしにセーヌ川にはいって水を浴びたようでもあった。頭蓋骨《ずがいこつ》の下に烈火が燃え立ってるような時も人にはあるものである。マリユスはちょうどそういう時にさしかかっていた。もう何一つ願わず、何一つ恐れなかった。彼は前夜以来そういう状態になっていた、そして熱しいら立ちながら晩になるのを待った。ただ一つの明らかな考えばかりが残っていた、すなわち九時にコゼットに会うこと。その最後の幸福こそ今では彼の未来のすべてだった。その先はただ暗黒のみであった。寂しい大通りを歩いていると、間をおいて不思議な響きがパリーの市中に聞こえるようだった。彼は夢幻のうちから頭を差し出して言った。「戦争でもしてるのかしら。」
 暗くなる頃、ちょうど九時に、コゼットに約束したとおり彼はプリューメ街にきていた。鉄門に近寄った時彼はすべてを忘れた。この前コゼットと会ってからもう四十八時間、そして今再び会えるのである。その他の考えは消えてしまい、異常な深い喜びをしかもう感じなかった。数世紀の長い間とも思えるかかる数分時は、常におごそかな驚嘆すべき特質を有していて、過ぎ去りつつ人の心をまったく満たしてく
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