街に住んでいたマニョンのもとへ、ビスケットを一つ持って行った。マニョンはまたそれを、サルペートリエールにいるバベの情婦に渡した。ビスケット一つは、獄裡《ごくり》の暗黒な象徴主義では、「とうていだめ[#「とうていだめ」に傍点]」という意味である。
 それから一週間とたたないうちに、バベとブリュジョンとは、ひとりは「審理」に行きひとりはそれから戻ってきながら、フォルス監獄の外回りの道で行き合った。「どうだプ街は?」とブリュジョンは尋ねた。「ビスケット」とバベは答えた。
 かくして、フォルス監獄でブリュジョンがこしらえた罪悪の胎児は流産してしまった。
 けれどもその流産は、ブリュジョンの計画とまったく違った結果を生み出した。それはこれからわかることである。
 往々にして、一つの糸を結んでいると思いながら実は他の糸を結んでいることがある。

     三 マブーフ老人に現われし幽霊

 マリユスはもはやだれをも訪問しなかったが、ただ時としてはマブーフ老人に出会うことがあった。
 窖《あなぐら》の梯子《はしご》とも言い得べきもので、ついには頭の上に幸福な人々の歩く音が聞かるる光のない場所に達する
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