りつぶされたまでである。
ブールボン家の没落は、彼らの方ではなく国民の方において、壮観をきわめた。彼らは粛然としかし何らの権威もなく王位を去った。彼らの滅落は、史上に陰惨なる感動を残す壮大な消滅の一つではなかった。シャール一世の幽鬼のごとき静穏でもなく、ナポレオンの鷲《わし》の叫びでもなかった。ブールボン家はただ立ち去った、それだけのことである。彼らは王冠をそこに置いた、そして自ら円光を保有しもしなかった。彼らはりっぱであった、しかしおごそかではなかった。彼らにはある程度まで不幸の壮大さが欠けていた。シャール十世はシェルブールへの旅行中、丸いテーブルを四角に切らした、そして崩壊しかけた王政よりも乱れかけた儀礼の方にいっそう心を痛めてるらしかった。かかる低落は、ブールボン家の者を愛する忠誠な人々を悲しましめ、その家がらをとうとぶまじめな人々を悲しました。しかるに民衆の方はいかにもみごとであった。ある朝、武装した王党の暴動とも言うべきものに国民は襲われた、しかし国民は自ら力あることを感じて、別に憤りもしなかった。国民はそれを防ぎ、自らおさえて、事物をその本来の場所に、すなわち政府を法律のうちに戻しブールボン家を悲しくも追放のうちに戻し、そしてそれでやめた。ルイ十四世が身を置いた天蓋《てんがい》の下から老王シャール十世を取り出し、それを静かに地に置いた。王家の人々に手を触るることを、国民はただ悲しみと用心とをもってしたのである。防障の役(一五八八年五月)の後ギーヨーム・デュ・ヴェールが発した荘重な言葉を、今更に思い起こさしめ、全世界の眼前に実行したものは、それはひとりの者ではなく、また数人の者ではなく、実にフランス自身であり、フランス全体であり、勝利を得、自らその勝利に酔ったるフランスであった。ギーヨームの言葉に曰く、「貴顕の愛顧を求むるになれ枝より枝へと飛び移る小鳥のごとくに、悲運より幸運へと向背するになれたる者どもにとりては、逆境にある君主に対して不敵なる態度を取るはいとやすきことなり。さあれ吾人にとりては、わが王の運命は常に尊重すべく、いわんや悲境にある王の運命をや。」
ブールボン家は尊敬をにない去った、しかし愛惜をにない去りはしなかった。前に述べたとおり、彼らの不幸は彼らよりもいっそう大であった。彼らは地平の彼方に消えうせてしまった。
七月革命は直ちに、全世界に味方と敵とを得た。味方は心酔と歓喜とをもってその方へ押し寄せ、敵は各その性質に従ってそれに背を向けた。ヨーロッパの諸君主は、まず初めに、その曙《あけぼの》における梟《ふくろう》のごとくに、おびえ驚いて目を閉じた、そして再びその眼を開いたのはただ威嚇《いかく》せんがためのみであった。それは道理ある恐怖であり、宥恕《ゆうじょ》すべき憤怒である。この不思議なる革命はほとんど突撃の手を振るわなかった。敗亡したる王位に、敵対して血を流すだけの名誉をさえ与えなかった。自由が身自らそこなわんことを常に喜ぶ専制政府の目から見れば、恐るべきものでありながら、しかも静かに手を拱《こまぬ》いてるということが七月革命の錯誤であった。その上、七月革命に対抗して試みられ計画されたところのものは何もなかった。最も不満なる者、最もいら立てる者、最も戦慄《せんりつ》を覚えてる者でさえ、皆それに対して頭を下げたのである。人の利己心と怨恨《えんこん》とがいかに強かろうとも、人間以上の高き手が共に働いてるのを感ぜらるる事件に対しては、ある神秘なる敬意が生ずるものである。
七月革命は、事実を打ち倒す正義の勝利である。光輝に満ちた事柄である。
事実を打ち倒す正義。そこにこそ、一八三〇年の革命の光輝があり、またその温和さがある。勝利ある正義は、少しも暴戻《ぼうれい》たることを要しない。
正義は即ち正であり真である。
正義の特質は、永久に美しく純なることである。事実は、たとい表面上きわめて必然的なものであろうとも、たといその時代の人々から最もよく承認されたものであろうとも、もし単に事実としてのみ存在するならば、もし正義をあまりに少ししか含有しないかあるいはまったく含有しないかするならば、ついには時を経るとともに、必ず畸形《きけい》となり廃物となりまたおそらくは怪物となるの運命を有している。もし事実がいかなる点まで醜くなり得るかを直ちに実見せんと望むならば、何世紀かをへだててマキアヴェリをながめてみるがいい。マキアヴェリは決して悪き天才ではなく、悪魔でもなく、卑劣なみじめな著述家でもなかった。彼はただ事実のみであった。しかも単にイタリーの事実のみではなく、ヨーロッパの事実であり、十六世紀の事実であった。しかし十九世紀の道徳観念の前に立たする時、彼はいかにも嫌忌《けんき》すべきものらしく思われ、また実際嫌
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