tぞ。」
ボシュエは酔っ払ってはいたが、平静を保っていた。
彼は開いた窓縁に腰掛け、背中を雨にぬらしながら、二人の友人をながめていた。
と突然彼は後ろに、騒がしい物音を、早い足取りを、武器を取れ[#「武器を取れ」に傍点]! という叫びを聞いた。振り返ってみると、シャンヴルリー街の端、サン・ドゥニ街を、銃を手にしたアンジョーラが通っていて、そのあとには、ピストルを持ったフイイー、剣を持ったクールフェーラック、短剣を持ったジャン・プルーヴェール、銃を持ったコンブフェール、カラビン銃を持ったバオレル、それから暴風のような武装した一群が続いていた。
シャンヴルリー街はカラビン銃の弾《たま》が届くくらいの長さしかなかった。ボシュエは即座に両手を口のまわりにあてて通話管とし、そして叫んだ。
「クールフェーラック! クールフェーラック! おーい。」
クールフェーラックはその呼び声を聞き、ボシュエの姿を認め、二、三歩シャンヴルリー街へはいり込み、「何だ?」と叫んだ。と同時にボシュエは、「どこへ行くんだ?」と叫んだ。
「防寨《ぼうさい》を作りに。」とクールフェーラックは答えた。
「じゃあここへこい。適当な場所だ。ここに作れ。」
「そうだ。」とクールフェーラックは言った。
そしてクールフェーラックの合い図で、一隊の者は、シャンヴルリー街へはいり込んだ。
三 グランテールの魔睡
実際そこはこの上もない場所であって、街路の入り口は広く、奥は狭まって行き止まりになり、コラント亭はその喉《のど》を扼《やく》し、モンデトゥール街は左右とも容易にふさぐことができ、攻撃することのできる口はただ、何ら掩蔽物《えんぺいぶつ》のない正面のサン・ドゥニ街からだけだった。酔っ払っていたボシュエは、食を断って専念するハンニバルにも劣らぬ慧眼《けいがん》を有していたわけである。
一隊の者が侵入してきたので、その街路はすべて恐怖に満たされた。通行人らは皆姿を隠した。たちまちのうちに街路の奥も右も左も、商店、仕事場、大門、窓、鎧戸《よろいど》、屋根窓、あらゆる雨戸、すべてが一階から屋根に至るまで閉ざされてしまった。おびえてるひとりの婆さんは、窓の前の物干し棒にふとんをかけて、銃弾の勢いを殺《そ》ごうとしていた。ただ居酒屋ばかりが戸を開いていた。そしてそれも、一隊の者がはいり込んできたからであって、別に仕方がなかったのである。「まあ、まあ!」とユシュルー上《かみ》さんはため息をついていた。
ボシュエはクールフェーラックに会いにおりていった。
窓によりかかっていたジョリーは叫んだ。
「クールフェーラック、雨傘《あべがさ》ぼって来るとよかったんだ。風邪《かぜ》を引くよ。」
そのうちにやがて、居酒屋の店先の鉄格子《てつごうし》から多くの鉄棒はぬき取られ、十間ばかりの街路は舗石《しきいし》をめくられた。ガヴローシュとバオレルとは、アンソーという石灰屋の荷馬車を通りがかりに奪い取って、それをひっくり返した。馬車には石灰をつめこんだ樽《たる》が三つのっていたので、彼らはそれを下敷きにして舗石《しきいし》を積んだ。アンジョーラは窖《あなぐら》の揚げ戸を開いた。そしてユシュルー上《かみ》さんの空《から》の酒樽《さかだる》は皆石灰樽の横に並べられた。フイイーはいつも扇の薄い骨を彩色するになれた指で、切り石を二所《ふたところ》につんで石灰樽や馬車のささえにした。その切り石も他の物と同じく即座に取ってこられたもので、どこで得られたのかわからなかった。近くの家の正面からいくつもの支柱がぬき取られて、酒樽の上に横たえられた。ボシュエとクールフェーラックとがふり返った時には、街路の半ばは既に人の背丈よりも高い砦《とりで》でふさがれていた。他の物をこわしながら何かを築くには、群集の手に如《し》くものはない。
マトロートとジブロットも、人々の間に交じって働いた。ジブロットは漆喰《しっくい》の破片を運んで行ききしていた。元気のない彼女も防寨《ぼうさい》の手助けをしたのである。彼女はいつものとおり半ば眠ったような様子をしながら、酒を客に出すと同じように舗石を提供していた。
二頭の白馬をつけた乗り合い馬車が街路の向こう端を通った。
ボシュエは舗石をまたぎ越し、走って行って御者を呼び止め、乗客をおろし、「婦人ら」には手を貸してやり、御者を去らせ、馬車と馬とを手綱で引っぱってきた。
「乗り合い馬車はコラント亭の前を通るべからず。」と彼は言った。「人はすべてコラントに行き得るものに[#「人はすべてコラントに行き得るものに」に傍点]非《あら》ずだ[#「ずだ」に傍点]。([#ここから割り注]訳者注 コリントでは非常に金がかかるので普通の者はそこに遊び行くことができないという意味のギリシ
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