オ人、後者はルイ十六世の大蔵大臣にして大改革を施さんとせし人[#ここで割り注終わり])。機械を破砕し、倉庫を略奪し、レールを切断し、船渠《せんきょ》を破壊し、群集が誤れる道をたどり、民衆が進歩の裁きを拒み、学生らがラミューを殺害し、ルーソーが石を投ぜられてスウィスより追われる、などは皆暴動である。イスラエルがモーゼに反抗し、アテネがフォキオンに反抗し、ローマがスキピオに反抗する、などは皆暴動である。パリーがバスティーユの牢獄《ろうごく》に反抗する、これこそは反乱である。兵士らがアレクサンデルに反抗し、水夫らがクリストフ・コロンブスに反抗する、などは皆暴動であり、不真実なる謀叛《むほん》である。なぜかなれば、コロンブスが羅針盤《らしんばん》をもってアメリカに対してなすところを、アレクサンデルは剣をもってアジアに対してなすからである。コロンブスのごとく、アレクサンデルは新世界を発見する。かく新世界を文化にもたらすことは、光明を増加する所以《ゆえん》であって、それに対するあらゆる抵抗は皆罪あるものとなる。時として民衆は誤って自己に不実となることがある。烏合《うごう》の衆は民衆に対する裏切り者である。たとえばあの塩密売者らの長い間にわたる血に塗られた抗議、慢性的に起こった正当な反抗は、いよいよ最後の瞬間に、救済の日に、人民の勝利の時に当たって、王位に味方し、シューアヌリー([#ここから割り注]訳者注 大革命の初期に蜂起せる王党農民の暴動[#ここで割り注終わり])と変じ、敵せんがための反乱をして味方せんがための暴動たらしめたのであるが、これ以上奇妙な事があろうか。無知の暗い傑作ではないか。この塩密売者らは、王室の絞首台をのがれ、しかも首に絞首繩《こうしゅじょう》の一片を残したまま、白の帽章([#ここから割り注]訳者注 白は王党のしるしである[#ここで割り注終わり])をつける。「塩税を廃せよ」の叫びから、「国王万歳」の叫びを産み出すのである。またサン・バルテルミーにおける虐殺・九月([#ここから割り注]一七九二年[#ここで割り注終わり])の斬殺《ざんさつ》、アヴィニョンにおける殺戮《さつりく》、コリニーの殺害、ランバル夫人の殺害、ブリュヌの殺害([#ここから割り注]訳者注 後の三人は皆それぞれ前の三つの虐殺のおりの犠牲者である[#ここで割り注終わり])ミクレー山賊の難、青リボン党の難、弁髪党の難、ゼユの仲間の難、腕章騎士の難などは皆暴動である。ヴァンデの乱はカトリック派の大暴動である。
権利が行動してる音は、おのずからそれと見分けられるものであり、混乱せる群集の震えより常に出《い》ずるものではない。世には狂愚なる憤怒があり、破鐘がある。あらゆる警鐘は皆青銅の音を出すものではない。熱情と無知との動揺は進歩の振動とは異なる。蜂起《ほうき》するもよし、しかし生長せんがためのものであれ。いずれの方向へ行かんとするかを自ら指示せよ。反乱は皆前方へ向かって進むものに限る。その他の蜂起《ほうき》は悪である。暴力的なあらゆる後退は皆暴動である。後退は人類に対する暴行である。反乱は真理の発作的激怒である。反乱が動かす舗石《しきいし》は権利のひらめきをほとばしらす。しかしそれらの舗石は暴動に向かっては泥《どろ》をしか与えない。ダントンがルイ十六世に反抗するのは反乱であり、エベールがダントンに反抗するのは暴動である。
それゆえに、ラファイエットの言ったごとく、反乱は至当の場合には最も神聖なる義務となり得るが、暴動は最も痛むべき不法行為となり得る。
また両者の間には、熱の強度の差も存する。反乱は多く噴火山であり、暴動は多く藁火《わらび》である。
前に言ったごとく、謀叛《むほん》は時として政府の権力のうちにある。ポリニャックはひとりの暴動家であり、カミーユ・デムーランはひとりの統御者である。
時として反乱は復活である。
普通選挙による万事の解決はまったく近代の事実であり、この事実より以前の全歴史は、四千年の昔より、権利の侵害と民衆の苦しみとに満たされているがゆえに、歴史の各時代には皆当然出るべき抗議がある。ローマ諸皇帝の下には、反乱は存しなかったがしかしユヴェナリスがいた。
憤怒は作る[#「憤怒は作る」に傍点]([#ここから割り注]訳者注 憤怒は詩を作る――ユヴェナリスの言葉[#ここで割り注終わり])がグラックス兄弟のあとを継ぐ。
諸皇帝の下には、シエナの亡命者([#ここから割り注]ユヴェナリス[#ここで割り注終わり])がおり、またローマ年代記[#「ローマ年代記」に傍点]の作者([#ここから割り注]タキツス[#ここで割り注終わり])がいる。
パトモス島の広大なる亡命者([#ここから割り注]ヨハネ[#ここで割り注終わり])のことはここに言うまでもな
前へ
次へ
全181ページ中123ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング