さであって、そこにはあらゆる物質的要素は結合しているが、何ら精神的要素は加えられていない。
 共産主義と土地均分法とは、第二の題目を解決するものと自ら信じている。しかしそれは誤った見解である。それらの分配は生産を殺すものである。平等な分有はついに競争を絶滅させ、その結果また労働を絶滅させる。それは分配物を殺す屠殺者《とさつしゃ》によってなさるる分配である。ゆえにそれらのいわゆる解決に止まることは不可能である。富を殺すことは決して富を分配することではない。
 二つの題目は、これをよく解決せんがためには両者同時に解決するを要する。両者の解決は、これをともに結合して一体となすを要する。
 二つの題目の第一をのみ解決すれば、ヴェニスとなりイギリスとなるであろう。ヴェニスのごとく人為的の強勢をきたし、もしくはイギリスのごとく物質的の強勢をきたすであろう。悪き富者となるであろう。ついには、ヴェニスが死滅したごとく暴挙によって滅び、あるいはイギリスが将来失墜するであろうごとく破産によって滅ぶるであろう。そして世界は、その死滅と失墜とをただ傍観するのみであろう。なぜなれば、すべて利己心のみに過ぎないところのものは、すべて人類に対して一つの徳操をも、または一つの観念をも表示しないところのものは、世界はこれをただ失墜し死滅するに任して顧みないからである。
 もとよりここに吾人は、ヴェニスあるいはイギリスなどの言葉をもって、ある民衆をさすのではなくて、ある社会制度をさすのである。国民の上に置かれた寡頭政治《かとうせいじ》をさすのであって、国民そのものをさすのではない。あらゆる国民に対して吾人は常に尊敬と同情とを持つ。民衆としてのヴェニスは他日復活するであろう。貴族としてのイギリスは没落するであろうが、国民としてのイギリスは永久に生きるであろう。以上のことを一言ことわって、更に言を進めよう。
 二つの題目を解決せよ。富者を励まし、貧者を保護せよ。困窮を絶滅せよ。強者が弱者を不正に利用することをやめさせよ。既に到達せる者に対する途半ばなる者の不正な嫉視《しっし》を抑圧せよ。労働の貸金を数理的にかつ友愛的に正せよ。子供の成長に無料の義務教育を添加し、学問をもって壮年の基礎とせよ。手を休めずに知力を啓発せよ。強勢な民衆たるとともに幸福な家族たれ。所有権を廃することなくそれを普遍的ならしめて、各公民は皆ひとり残らず所有者となるように、所有権を民主的たらしめよ。これは人の考うるごとく難事ではない。要するに二言につづむれば、富を作り出すことを知り富を分配することを知れ。かくした暁には、物質的偉大さと精神的偉大さとを共に得るであろう。そして自らフランスと呼ぶに恥ずかしからざるに至るであろう。
 以上のごときがすなわち、本道をはずれたる二、三の学派を外にし、またその上に立って、社会主義が唱えたところのことである。社会主義が事実のうちにさがし出したところのものはそれであり、人の精神のうちに描き出したところのものはそれである。
 嘆賞すべき努力、神聖なる試みであった。
 それらの主義、それらの理論、それらの障害、為政家にとっては意外にも思想家らと協調しなければならない必要、かすかに見ゆる紛糾せる事理、新たに立てなければならない政治、一方に革命の理想とあまり離れないままで他方に古き世界との一致、ポリニャクと対立さしてラファイエットを用いなければならない事情、反乱の下に明らかに察知さるる進歩、上下両院と下層民衆、平均させなければならない周囲の競争、革命に対する信念、決定的の至高なる正義を漠然《ばくぜん》と懐抱したがために生じた、おそらくある一時のあきらめ、身分を保たんとする意志、家庭的精神、民衆に対するまじめな敬意、正直なる性質、それらのことがほとんど痛ましいまでにルイ・フィリップの頭を満たし、いかに強くまた勇敢であったとは言え、時としては国王たる困難の下に彼は圧倒されんとした。
 恐るべき分裂を、しかもフランスはかつて見ないほど真にフランス的であったから、微塵《みじん》になることではない分裂を、彼は自分の足下に感じた。
 重畳した闇《やみ》は地平をおおうていた。異常な影はしだいに近く迫ってきて、人と事物と思想との上に徐々にひろがっていった。あらゆる激情と思想とから来る影であった。早急に息をふさがれたすべてのものは、静かにうごめき発酵しつつあった。時としてはこの正直なる男([#ここから割り注]ルイ・フィリップ[#ここで割り注終わり])の本心は息を止めた。詭弁《きべん》と真理とが相交じってる空気の中にはそれほど悪気がこもっていた。人の精神は、あたかも嵐の前の木の葉のごとく、社会の焦躁《しょうそう》のうちに震えていた。電圧はきわめて高く、時々に異常なあらゆる光がひらめき出した。
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