ネ気味悪いのっそりとしたふうで、寄り集まってきた。
何か怪しい道具を皆手に持っていた。グールメルは浮浪人らが頬かぶり[#「頬かぶり」に傍点]と呼ぶ一種の曲がった梃《てこ》を持っていた。
「何だってそんな所にいるんだ。俺《おれ》たちをどうしようってえんだ。気でも違ったのか。」とテナルディエはおよそ低い声でどなり得る限りどなった。「何で仕事の邪魔をしやがるんだ。」
エポニーヌは笑い出して、彼の首に飛びついた。
「お父さん、あたしはただここにいるからいるだけよ。この節じゃ石に腰掛けてもいけないことになったの? お父さんこそここに来るわけはないじゃないか。ビスケットなのに何しにきたのよ。マニョンにそう言っといたのに。ここはとてもだめ。だがあたしをまあ抱いておくれよ、お父さん! もうだいぶ会わなかったわね。とうとう出てきたのね。」
テナルディエはエポニーヌの腕を放そうとして、そしてつぶやいた。
「よしよし。俺《おれ》を抱いてくれたな。そうだ、俺は出てきたんだ。もう牢《ろう》にはいねえ。さあもう行くがいい。」
しかしエポニーヌは手を放さないで、ますます彼に甘え出した。
「お父さん、いったいどういうふうにしたのよ。ぬけ出して来るなんて、よほどうまくやったのね。話しておくれよ。そしてお母さんは? 今どこにいるの。お母さんのことも聞かしておくれよ。」
テナルディエは答えた。
「お母さんは達者だ。よくは知らねえ。まあ放せよ。退《ど》いてくれったら。」
「あたしここを離れやしない。」とエポニーヌはだだっ児が甘えるように言った。「四月《よつき》も会わないのに、やっと抱きついたばかりで、もうあたしを追いやろうっていうの。」
そして彼女はまた父の首にかじりついた。
「おいおい、何をばかなことをしてるんだ!」とバベは言った。
「早くしろい。」とグールメルは言った。「でか[#「でか」に傍点]が来るかも知れねえ。」
腹声の男は次の諷句《ふうく》を口ずさんだ。
[#ここから4字下げ]
お正月ではあるめえし、
父ちゃん母ちゃんた何事だ。
[#ここで字下げ終わり]
エポニーヌは五人の盗賊の方へ振り向いた。
「あらブリュジョンさん。……こんにちはバベさん。こんにちはクラクズーさん。……あたしがわかって、グールメルさん。……いかが、モンパルナス。」
「お前だと皆わかってるよ。」とテナルディエは言った。
「だが挨拶《あいさつ》もたいていにしろよ。俺《おれ》たちの邪魔をするな。」
「狐《きつね》が出る時分だ、雛鶏《ひよっこ》の出る幕じゃねえ。」とモンパルナスは言った。
「見るとおり俺たちはここで用があるんだ。」とバベは言い添えた。
エポニーヌはモンパルナスの手を取った。
「気をつけろよ、」と彼は言った、「けがをするぞ。どす[#「どす」に傍点]を持ってるんだ。」
「まあモンパルナス、」とエポニーヌはごく静かに答えた、「仲間の者はお互いに信用するものよ。あたしはお父さんとかの娘よ。バベさん、グールメルさん、この仕事を調べるように言いつかったのはあたしよ。」
注意すべきことには、エポニーヌは隠語を使っていなかった。マリユスを知って以来、彼女はその恐ろしい言葉を口にすることができなくなっていたのである。
彼女は、骸骨《がいこつ》の手のような骨立った弱々しい小さな手で、グールメルの荒々しい太い指を握りしめて、言い続けた。
「皆《みんな》も知ってるとおりあたしばかじゃないわ。いつもあたしを信じてくれるじゃないの。何度も用をしてやってるわ。ここもいろいろ調べてみると、骨折っても全くむだなことがわかったのよ。この家にはいったってどうにもならないことは、確かだわ。」
「女ばかりじゃねえか。」とグールメルは言った。
「いえ、皆引っ越したのよ。」
「でも蝋燭《ろうそく》は引っ越さねえと見えるな。」とバベは言った。
そして彼は、母家《おもや》の屋根裏に動いてる光を、木立ち越しにエポニーヌにさしてみせた。それは洗濯物《せんだくもの》をひろげるためにトゥーサンがともしてる灯火であった。
エポニーヌは最後の努力を試みた。
「でもね、」と彼女は言った、「ごく貧乏な人たちよ。一スーのお金もないきたない家だよ。」
「ぐずぐず言うな!」とテナルディエは叫んだ。「家を引っくり返して、窖《あなぐら》と屋根裏とをあべこべにして、中に何があるかお前に教えてやらあ、フランだかスーだか厘《りん》だか。」
そして彼は前に出ようとして彼女を押しのけた。
「ねえモンパルナスさん、」とエポニーヌは言った、「お前さんはいい人だわね、どうかはいらないでおくれよ。」
「気をつけろったら、けがをするぞ。」とモンパルナスは答え返した。
テナルディエは例のきっぱりした調子で言った。
「どけ、女《あま》っちょが
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