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その数語に対して、彼は激しい眩惑《げんわく》を覚えた。しばらくは、心の中に起こった感情の変化に押しつぶされたまま、驚駭《きょうがい》の念に酔ったかのようにマリユスの手紙をながめていた。彼は目の前に、憎むべき男の死という美しい光景を描き出していた。
彼は内心の喜びの恐ろしい叫びをもらした。――かくて万事終わったのである。結末は思ったよりも早く到来した。彼の運命をふさいでいる男は今や消えうせんとしていた。その男は自ら勝手におのれの意志で立ち去ったのである。彼ジャン・ヴァルジャンが少しも手出しをすることなく、少しも罪を犯すことなくして、「あの男」は死のうとしていた。おそらくはもう既に死んでるかも知れなかった。――そこで彼の熱に浮かされた心は推測を始めた。――否。彼はまだ死んではいない。手紙は明らかに、明朝コゼットに読ますように書かれている。十一時と十二時との間に聞こえた二度の一斉射撃《いっせいしゃげき》以来、何の音も聞こえなかった。防寨《ぼうさい》は夜明けにならなければ本当の攻撃は受けないだろう。しかしいずれにしても同じことである。「あの男」は、一度戦いにはいった以上もう助かるものではない。彼は歯車のうちに巻き込まれているのである。――ジャン・ヴァルジャンはほっと助かったような気がした。これで再びコゼットとただ二人きりになるのだった。競争はやんだ。前途はまた開けてきた。彼はただその手紙をポケットの中に隠して置きさえすればよかった。コゼットは「あの男」がどうなったか永久に知らないだろう。「今はただ万事をその成り行きに任せるばかりだ。あの男はとうてい脱《のが》れることはできない。まだ死んでいないにしても、やがて死ぬことは確かだ。何という幸福だろう!」
それだけのことを心の中で言ってから、彼は陰鬱《いんうつ》になった。
それから彼はおりていって、門番を起こした。
一時間ばかりの後、ジャン・ヴァルジャンはすっかり国民兵の服をつけ武装して出かけていった。門番はその近所で、彼の身じたくに必要な品々をすべて手に入れることができたのである。ジャン・ヴァルジャンは弾丸をこめた銃と弾薬のいっぱいはいった弾薬盒《だんやくごう》とを携えていた。彼は市場町の方へ進んでいった。
四 ガヴローシュの熱狂
そのうちに、ガヴローシュには一事件が起こっていた。
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