B彼はそこに、戸口の標石の上にすわって、氷の悪鬼のようにじっとしていた。絶望のうちにも氷結があるものである。遠くには警鐘の響きと漠然《ばくぜん》たる喧騒《けんそう》の音とが聞こえていた。暴動に交じったそれらの鐘の響きの中に、サン・ポールの大時計が、おごそかに落ち着いて十一時を報じた。騒がしい警鐘は人間の業《わざ》であり、落ち着いた時の鐘は神の業《わざ》である。しかし時間の経過はジャン・ヴァルジャンの上に何らの影響も与えず、彼は身動きさえしなかった。ところが間もなく、一斉射撃《いっせいしゃげき》の音が突然市場町の方面に起こり、次にまた更に激しい一斉射撃の音が起こった。それはおそらく、既に述べきたったとおり、マリユスによって撃退されたシャンヴルリー街の防寨《ぼうさい》の攻撃であったろう。夜の静けさのためいっそう猛烈に聞こえるその二度の射撃の音に、ジャン・ヴァルジャンは身を震わし、音のした方を向いて立ち上がった。しかし次にまた彼は、標石の上に腰をおろし、両腕を組み、頭はまた静かに胸にたれてしまった。
 彼は再び暗澹《あんたん》たる独語を始めた。
 突然彼は目を上げた。街路をだれか歩いていて、その足音がすぐ傍《そば》に聞こえた。街灯の光にすかして見ると、古文庫館へ通ずる街路の方に、勢いのいい年若な青白い顔が認められた。
 それはオンム・アルメ街にやってきたガヴローシュだった。
 ガヴローシュは上の方をながめて、何かさがすようだった。彼はジャン・ヴァルジャンの姿を明らかに見たが、何の注意も払わなかった。
 ガヴローシュは上の方をながめた後、こんどは下の方をながめた。彼は爪先《つまさき》で伸び上がって、一階の戸口や窓に触《さわ》ってみた。けれどもそれらは皆閉ざされて、※[#「金+饌のつくり」、第4水準2−91−37]《かけがね》や錠でしめ切ってあった。その閉鎖された人家の前面を五、六軒調べてみた後、浮浪少年は肩をそびやかして、独語をもらした。
「畜生め!」
 それから彼はまた上の方を見上げ始めた。
 ジャン・ヴァルジャンは一瞬間前まではだれにも口もきかず返事もしそうにない心地に沈んでいたが、今やその少年に何とか言ってみたくてたまらないような気持ちになった。
「小僧さん、」と彼は言った、「どうかしたのかい。」
「腹がすいてるんだ。」とガヴローシュはきっぱり答えた。そしてまた言い添
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