サの他の者が、どっと居酒屋から出てきた。ほとんど間に合いかねるほどだった。見ると、銃剣の密集したひらめきが防寨の上に押し寄せていた。長躯《ちょうく》の市民兵が侵入してきたのである。あるいは乗り合い馬車をまたぎ越え、あるいは防寨の切れ目からはいり込んで、逃げもしないで徐々に後退してる浮浪少年を追いつめていた。
 危機一髪の場合だった。洪水の折り、河水が堤防とすれすれに高まってそのすき間からあふれはじめるのと同じ、恐るべき瞬間だった。も一秒後れていたら、防寨《ぼうさい》は奪われていたに違いない。
 バオレルはまっさきにはいり込んできた市民兵におどりかかり、カラビン銃をさしつけて一発の下にそれを殺した。しかし彼は次の市民兵から銃剣で殺された。またクールフェーラックも、もひとりの兵に打ち倒されて、「きてくれ!」と叫んでいた。兵士のうちでも巨人のような一番大きな男が、銃剣をつき出しガヴローシュをめがけて進んできた。浮浪少年はその小さな胸にジャヴェルの大きな銃を持ち、決然とその大男をねらい、引き金を引いた。しかしそれは発火しなかった。ジャヴェルは銃に弾薬をこめていなかったのである。市民兵は大笑して、銃剣を彼の上にさしつけた。
 しかるにその銃剣がガヴローシュの身に触れる前に、銃は兵士の手から落ちた。一発の弾が飛びきたって、彼の額のまんなかを貫き彼をあおむけにうち倒した。また第二の弾は、クールフェーラックに襲いかかっていた兵士の、胸の中央に命中して、それを舗石《しきいし》の上に仆《たお》した。
 それは、ちょうど防寨の中にはいってきたマリユスの仕業《しわざ》だった。

     四 火薬の樽《たる》

 マリユスは、しばらくモンデトゥール街の角《かど》に隠れて、戦いの最初の光景を見ながら、なお決断しかねて身を震わしていた。けれども、深淵《しんえん》の呼び声とも言うべき神秘な荘厳な眩惑《げんわく》に、彼は長く抵抗することができなかった。切迫してる危機、悲愴《ひそう》な謎《なぞ》たるマブーフ氏の死、殺されたバオレル、「きてくれ!」と叫んでるクールフェーラック、追いつめられてる少年、それを助けあるいはその讐《あだ》を報ぜんとしている友人ら、それらを眼前に見ては、あらゆる躊躇《ちゅうちょ》の情も消え失せてしまい、二梃《にちょう》のピストルを手にして混戦のうちにおどり込んだ。そして第一発で
前へ 次へ
全361ページ中330ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング