ェは死ぬであろうと彼女に明言したではないか。彼女はそれを知りつつ出発した。それはマリユスが死ぬのを好んだからに違いない。そしてまた、彼女がもう彼を愛していないことは明らかだった。なぜならば、彼の住所を知りながら、ことわりもなく、一言の言葉もなく、一つの手紙も贈らず、そのまま出発したからである。今や、生も何の役に立つか、また何ゆえの生であるか! しかもここまでやってきながらまた後ろにさがろうとするのか、危険に近づきながら逃げようとするのか、防寨《ぼうさい》の中をのぞき込みながら身を隠そうとするのか。「要するに、もうそういうことはたくさんだ、はっきり見た、それで十分だ、単に内乱ではないか、足を返すべきである、」と言いながら、震えてのがれ隠れようとするのか。自分を待ってる友人らを見捨てようとするのか。彼らはおそらく自分の助力をも必要としてるだろう、一握りの人数をもって多数の軍隊に対抗せんとしているだろう! 愛にも、友情にも、誓いにも、すべてに同時に裏切ろうとするのか。自分の卑怯《ひきょう》さを愛国心の美名で装おうとするのか! 否それはでき難いことであった。そしてもし父の霊がそこに影の中にいて、彼が退こうとするのを見たならば、彼の腰に剣の平打ちを食わして叫んだであろう、「進み行け、卑怯者めが!」
 種々の考えが入り乱れて、彼は頭をたれていた。
 しかるに突然、彼はまた頭を上げた。一種の燦然《さんぜん》たる信念が彼の脳裏に浮かんだのである。墳墓の間近においては特に思想の明確をきたすものである。死のそばにあっては真の目が開けてくるものである。まさに参加せんとするその行動の幻が彼に現われた。それはもはや悲しむべきものではなく、壮大なものであった。市街戦は、ある内心の働きを受けて、彼の思想の目の前ににわかに姿を変えた。夢想のあらゆる疑問の群れは、騒然として彼の頭に浮かんできたが、彼は少しもそれに乱されはしなかった。彼はそれに一々答弁を与えた。
 およそ、父は何ゆえに憤ることがあろうぞ。反乱も貴《とうと》い義務とまで高まりゆく場合がないであろうか。目前の戦いに身を投じても、ポンメルシー大佐の子として恥ずべき点がどこにあろう。もとよりそれはモンミライュやシャンポーベール([#ここから割り注]訳者注 ナポレオンがプロシャ及びロシヤの軍を敗りし所[#ここで割り注終わり])ではない、それは他
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