民は皆ひとり残らず所有者となるように、所有権を民主的たらしめよ。これは人の考うるごとく難事ではない。要するに二言につづむれば、富を作り出すことを知り富を分配することを知れ。かくした暁には、物質的偉大さと精神的偉大さとを共に得るであろう。そして自らフランスと呼ぶに恥ずかしからざるに至るであろう。
 以上のごときがすなわち、本道をはずれたる二、三の学派を外にし、またその上に立って、社会主義が唱えたところのことである。社会主義が事実のうちにさがし出したところのものはそれであり、人の精神のうちに描き出したところのものはそれである。
 嘆賞すべき努力、神聖なる試みであった。
 それらの主義、それらの理論、それらの障害、為政家にとっては意外にも思想家らと協調しなければならない必要、かすかに見ゆる紛糾せる事理、新たに立てなければならない政治、一方に革命の理想とあまり離れないままで他方に古き世界との一致、ポリニャクと対立さしてラファイエットを用いなければならない事情、反乱の下に明らかに察知さるる進歩、上下両院と下層民衆、平均させなければならない周囲の競争、革命に対する信念、決定的の至高なる正義を漠然《ばくぜん》と懐抱したがために生じた、おそらくある一時のあきらめ、身分を保たんとする意志、家庭的精神、民衆に対するまじめな敬意、正直なる性質、それらのことがほとんど痛ましいまでにルイ・フィリップの頭を満たし、いかに強くまた勇敢であったとは言え、時としては国王たる困難の下に彼は圧倒されんとした。
 恐るべき分裂を、しかもフランスはかつて見ないほど真にフランス的であったから、微塵《みじん》になることではない分裂を、彼は自分の足下に感じた。
 重畳した闇《やみ》は地平をおおうていた。異常な影はしだいに近く迫ってきて、人と事物と思想との上に徐々にひろがっていった。あらゆる激情と思想とから来る影であった。早急に息をふさがれたすべてのものは、静かにうごめき発酵しつつあった。時としてはこの正直なる男([#ここから割り注]ルイ・フィリップ[#ここで割り注終わり])の本心は息を止めた。詭弁《きべん》と真理とが相交じってる空気の中にはそれほど悪気がこもっていた。人の精神は、あたかも嵐の前の木の葉のごとく、社会の焦躁《しょうそう》のうちに震えていた。電圧はきわめて高く、時々に異常なあらゆる光がひらめき出した。
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