迪セっても容貌《ようぼう》から言っても、これが姉妹かと思われるほどだった。妹の方はかわいい心根を持っていて、すべて輝かしい方へ心を向け、花や詩や音楽に夢中になり、光栄ある世界をあこがれ、熱烈で、高潔で、子供の時から頭の中である勇壮な者に身をささげていた。姉の方もまた自分の夢想を持っていた。ある御用商人、ある金持ちで恰幅《かっぷく》のいい糧秣係《りょうまつがか》り、あるいかにもお人よしの夫《おっと》、ある成金、またはある県知事、そういうものを蒼空《そうくう》のうちに夢みていた。県庁の招待会、首に鎖をからました控え室の接待員、公の舞踏会、市町村長の祝辞、「知事夫人」たること、そういうものが彼女の想像のうちに渦巻いていた。そのようにしてふたりの姉妹は若いころ、めいめい自分の夢想のうちにさまよい出ていた。ふたりとも翼を持っていた、ひとりは天使のように、ひとりは鵞鳥《がちょう》のように。
いかなる野心も、少なくともこの世では、十分に満たさるることはない。いかなる天国も、現代の時勢では、地上のものとなることはない。妹は自分の夢想中の男と実際結婚したが、その後死んでしまった。姉の方は一度も結婚をし
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