肩をとらえた。そして仮面をつけた腹声の男は、彼の前に立ちふさがって、少しでも動いたら大鍵《おおかぎ》を食わして頭を打ち破ってやろうと待ち構えた。
 同時にマリユスは、壁の下の方で自分のすぐ下に、低い声でかわされる次の対話を聞いた。あまり近いので、話してる者の姿は穴から見えなかった。
「こうなったらほかに仕方はねえ。」
「やっつける!」
「そうだ。」
 それは主人と女房とが相談してるのだった。
 テナルディエはゆっくりとテーブルの方へ歩み寄って、その引き出しを開き、ナイフを取り出した。
 マリユスはピストルの手を握りしめた。異常な困惑のうちに陥った。一時間前から、彼の内心のうちには二つの声があった。一つは父の遺言を尊重せよと彼に語り、一つは捕虜を救えと彼に語っていた。その二つの声は絶えず互いに争闘を続けて彼をもだえさした。彼はこの瞬間まで、その二つの義務を相融和し得る道はないかと漠然《ばくぜん》と願っていた。しかしそれをかなえるようなものは何も起こってこなかった。しかるにもはや危機は迫っており、遅滞の最後は越えられていた。捕虜から数歩の所に、テナルディエはナイフを手にして考え込んでいた。
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