ゥなり完全にそなえているとも称し得るものだった。大人《おとな》のズボンを変なふうにはいていた。しかしそれは親譲りのものではなかった。また女用の上衣をつけていた。しかしそれは母親からもらったものではなかった。だれかがかわいそうに思ってそういうぼろを着せてやったものだろう。といっても、彼は両親を持っていた。ただ、父親は彼のことを気にも止めず、母親は彼を少しも愛していなかった。彼はあらゆる子供のうちでも最もあわれむべき者のひとりだった。父と母とを持ちながらしかも孤児でもある子供のひとりだった。
 この少年は、往来にいる時が一番楽しかった。街路の舗石《しきいし》も彼にとっては、母の心ほどに冷酷ではなかった。
 彼の両親は彼を世の中に蹴《け》り捨ててしまったのである。
 彼はただ訳もなく飛び出してしまったのである。
 彼は、騒々しい、色の青い、すばしこい、敏感な、いたずら者で、根強いかつ病身らしい様子をしていた。街頭を行き来し、歌を歌い、銭投げをし、溝《どぶ》をあさり、少しは盗みをもした。しかし猫《ねこ》や雀《すずめ》のように快活に盗みをやり、悪戯者《いたずらもの》と言われれば笑い、悪者と言われ
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