仕事をしてるさまも見えなかった。何かの機械もなく、糸取り車もなく、何らの道具もなかった。ただ片すみに、怪しい鉄片が少しばかりあった。そういう陰鬱《いんうつ》な怠慢こそ、絶望の後にきたり、死の苦しみの前に来るものである。
 マリユスはしばしその惨憺《さんたん》たる室の内部をながめていた。それは墓の内部よりもいっそう恐ろしいものだった。そこでは、人の魂がうごめき人の生命があえいでるのが感じられるのだった。
 屋根裏の部屋、窖《あなぐら》、社会の最下層をはいまわるある貧人らがいる賤《いや》しい溝、それはまったくの墓場ではなく、むしろ墓場の控え室である。しかしながら、富者らがその邸宅の入り口に最も華美をつくすがように、貧者らのすぐそばにある死も、その玄関に最大の悲惨をこらすがように思われる。
 男は黙ってしまい、女は口もきかず、若い娘は息さえもしていないようだった。ただ紙の上をきしるペンの音ばかりが聞こえていた。
 やがて男は書く手を休めずつぶやいた。
「愚だ、愚だ、すべて愚だ!」
 ソロモンの警語([#ここから割り注]訳者注 空なるかな空なるかなすべて空なり![#ここで割り注終わり])をその
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