刷りの版画が壁にかかっていた。その下の端には「夢」と大字で書かれていた。それは眠ってる女と子供とを描いたもので、子供は女の膝《ひざ》の上に眠っていて、一羽の鷲《わし》が嘴《くちばし》に王冠をくわえて雲の中を舞っており、女はなお眠ったまま子供の頭にその王冠のかぶさらないようにと払いのけていた。遠景には、栄光に包まれたナポレオンが、黄色い柱頭のついてる青い大きな円柱によりかかっていたが、その円柱には次の文字が刻まれていた、「マレンゴー、アウステルリッツ、イエナ、ワグラム、エロット。」
その額縁の下の方には、長めの一種の鏡板が下に置かれて、斜めに壁に立てかけてあった。裏返された画面、おそらく向こう側に書きなぐってある額面か、あるいは壁から取りはずされてそのままはめ込むのが忘られた姿鏡のようでもあった。
テーブルの上にはマリユスはペンとインキと紙とを認めたが、その前には、六十歳ばかりの男がすわっていた。男は背が低く、やせて、色を失い、荒々しく、狡猾《こうかつ》で残忍で落ち着かない様子であって、一言にして言えば嫌悪《けんお》すべき賤奴《せんど》だった。
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