。美しい娘はその訳がわからず、ひそかな身振りでそのことを彼に伝えた。
「何という貞節さだろう!」とマリエスは言った。

     八 老廃兵といえども幸福たり得る

 われわれは貞節[#「貞節」に傍点]という語を発したことであるし、また何事をも隠さないつもりであるから、「彼のユルスュール」は恍惚《こうこつ》のうちにあるマリユスにきわめてまじめな苦しみを与えたことが一度あるのを、ここに述べなければならない。それは彼女が、ルブラン氏を促してベンチを去り道を逍遙《しょうよう》した幾日かのうちの、ある日のことだった。晩春の強い風が吹いて篠懸《すずかけ》の木の梢《こずえ》を揺すっていた。父と娘とは互いに腕を組み合わして、マリユスのベンチの前を通り過ぎた。マリユスはそのあとに立ち上がり、その後ろ姿を見送った。彼の心は狂わんばかりで、自然にそういう態度をしたらしかった。
 何物よりも最も快活で、おそらく春の悪戯《いたずら》を役目としているらしい一陣の風が、突然吹いてきて、苗木栽培地《ペピニエール》から巻き上がり、道の上に吹きおろして、ヴィルギリウスの歌う泉の神やテオクリトスの歌う野の神にもふさわしい
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