十五カ月以来初めて彼は考えた。
 そしてまた初めて彼は、心のうちでとは言え、ルブラン(白)氏などという綽名《あだな》でその知らない紳士を呼んでいたことに、ある不敬さを感じた。
 そして彼は頭をたれ、手にしてるステッキの先で砂の上に物の形を描きながら、数分間じっとしていた。
 それから突然向きを変え、ベンチとルブラン氏とその娘とを後ろにして、自分の家へ帰っていった。
 その日彼は夕食を食いにゆくことを忘れた。晩の八時ごろそれに気づいたが、もうサン・ジャック街までやって行くにはあまり遅かったので、なあにと言って、一片のパンだけをかじった。
 彼は上衣にブラシをかけ、丁寧にそれを畳んでから、ようやく寝床にはいった。

     五 ブーゴン婆さんのたびたびの驚き

 ブーゴン婆さん――と言うのは、ゴルボー屋敷の借家主で門番で兼世帯女である婆さんで、実際は前に言ったとおりブュルゴンという名だったが、何物をも尊敬したことのないひどいクールフェーラックの奴《やつ》が、そう名づけてしまったのである([#ここから割り注]訳者注 ブーゴン婆とはぐずり婆の意[#ここで割り注終わり])。――ブーゴン婆さんは
前へ 次へ
全512ページ中287ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング