宿を引き払った。
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第五編 傑出せる不幸
一 窮迫のマリユス
マリユスにとって生活は苦しくなった。自分の衣服と時計とを食うのは大したことではない。彼はいわゆる怒った[#「怒った」に傍点]牝牛《めうし》という名状すべからざるものを食ったのである([#ここから割り注]訳者注 怒ったる牝牛を食うとは困窮のどん底に達するの意[#ここで割り注終わり])。それは実に恐るべきもので、一片のパンもない日々、睡眠のない夜々、蝋燭《ろうそく》のない夕、火のない炉、仕事のない週間、希望なき未来、肱《ひじ》のぬけた上衣《うわぎ》、若い娘らに笑われる古帽子、借料を払わないためしめ出される夕の戸、門番や飲食店の主人から受くる侮辱、近所の者の嘲《あざけ》り、屈辱、踏みにじられる威厳、選り好みのできない仕事、嫌悪《けんお》、辛苦、落胆、などあらゆるものを含んでいる。そしてマリユスは、いかにして人がそれらを貪《むさぼ》り食うか、いかにしばしば人はそれらのもののほかのみ下すべきものがないか、それを学んだのである。愛を要するがゆえに自尊をも要する青春の頃において、服装の賤《いや》し
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