ス[#「男爵マリユス」に傍点]・ポンメルシー[#「ポンメルシー」に傍点]。」
 老人は呼び鈴を鳴らした。ニコレットがやってきた。ジルノルマン氏はリボンと小箱とフロックとを取り、それらを室《へや》のまんなかに、床《ゆか》にたたきつけた。そして言った。
「そのぼろ屑《くず》を持ってゆけ。」
 一時間ばかりの間はまったく深い沈黙のうちに過ごされた。老人と老嬢とは互いに背中合わせにすわり込み、各自に、そしてたぶんは同じことを、思いめぐらしていた。終わりにジルノルマン伯母《おば》は言った。

「よいざまだ!」
 やがてマリユスが現われた。戻ってきたのである。そして室の閾《しきい》をまたがないうちに、祖父が自分の名刺を一枚手に持ってるのを見た。祖父は彼の姿を見るや、何かしらてきびしい市民的な冷笑的な高圧さで叫んだ。
「これ、これ、これ、これ、お前は今は男爵だな。お祝いを言ってあげよう。いったい何という訳だ?」
 マリユスは少し顔を赤らめて答えた。
「私は父の子だという訳です。」
 ジルノルマン氏は冷笑をやめて、きびしく言った。
「お前の父というのは、私だ。」
「私の父は、」とマリユスは目を伏せ厳
前へ 次へ
全512ページ中148ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング