n車の中で二晩過ごしたためにすっかり疲れていて、水泳場に一時間ばかり行って不眠を補いたくなったので、急いで自分の室《へや》に上がって行き、旅行用のフロックと首にかけていた黒い紐《ひも》とを脱ぐが早いか、すぐに水泳場へ出かけて行った。
ジルノルマン氏は健康な老人の例にもれず朝早くから起きていて、マリユスが帰ってきた音をきいた。それで老年の足の及ぶ限り大急ぎで、マリユスの室《へや》がある上の階段を上がっていった。そしてマリユスを抱擁し、抱擁のうちに種々尋ねてみて、どこから帰ってきたかを少し知ろうと思った。
しかし八十以上の老人が上がって来るのよりも、青年が下りてゆく方が早かった。ジルノルマン老人が屋根部屋《やねべや》にはいってきた時には、マリユスはもうそこにいなかった。
寝床はそのままになっており、その上には何の気もなしに、フロックと黒い紐《ひも》とが散らかしてあった。
「この方がよい。」とジルノルマン氏は言った。
そして間もなく彼は客間にはいってきた。そこには既に姉のジルノルマン嬢が席についていて、例の車の輪を刺繍《ししゅう》していた。
ジルノルマン氏は得意げにはいってきたので
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