wの便宜にのみ供され、勢力家の意のままになっていた。下層民衆の子弟を教育することに対する嫌悪《けんお》は、一般の信条となっていた。「半可通」が何の役に立つものか? そういうのが合い言葉だった。ところで、浮浪の子供は無学な子供の必然の帰結である。
その上、王政は時として子供の必要を生じた。そういう時には、往来から子供を拾い上げていた。
古いことはさておいて、ルイ十四世の時であるが、王は一艦隊を造ろうとした。それは道理あることで、よい考えだった。しかしその方法はどうだったか。風のまにまに漂わされる帆船に相並んで、それを必要に応じて曳舟《えいしゅう》するために、あるいは櫂《かい》によりあるいは蒸気によって自由な方向に進み得る船を有しなければ、艦隊なるものは存在し得ない。ところが当時の海軍にとっては、帆と櫂とによる軍艦があたかも今日の蒸気による軍艦のごときものだった。それで帆と櫂との軍艦が必要となった。しかしそういう軍艦は漕刑《そうけい》囚人によってのみ動かされていたので、従って漕刑囚人が必要となった。で宰相コルベールは、地方の監察官と諸侯の議政府とに命じて、でき得る限り多くの囚人をこしらえさした。役人らは彼の歓心を求めて大いに力を尽した。歌唱行列の前に帽子をかぶったままつっ立っている男がいると、新教徒的な態度だといって、すぐに漕刑場へ投じた。往来で子供に出会うと、その子供が十五歳になっていてかつ宿所を持たない場合には、すぐに漕刑場へ送った。それが偉大なる治世であり偉大なる世紀だったのである。
ルイ十五世の下では、浮浪の子供はパリーになくなってしまった。人知れぬある秘密な使途にあてんために、警察は子供を奪い去ってしまった。人々は王の赤血の沐浴《もくよく》について恐ろしい推測を戦慄しながらささやきかわした。バルビエはそれらのことを率直に書き留めている。時として警吏は、子供が少なくなったので父親のある子供まで捕えることがあった。父親は絶望的になって警吏につっかかっていった。そういう場合には高等法院が中にはいって、絞罪に処した。だれを? 警吏をか、否、父親を。
七 その階級
パリーの浮浪少年階級はほとんど一つの閥族である。だれでもはいれるものではないと言ってさしつかえないほどである。
この Gamin《ガマン》(浮浪少年)という語は、一八三四年に初めて印刷の上に現われて、俗語の域から文学上の言葉のうちにはいってきたのである。この語が現われたのは、クロード[#「クロード」に傍点]・グー[#「グー」に傍点]([#ここから割り注]訳者注 これも本書の作者ユーゴーの作である[#ここで割り注終わり])と題する小冊子の中であった。激しい物議を起こした。がその語は一般に通用されるに至った。
浮浪少年らの中で重きをなす原因にはきわめて種々なものがある。われわれが知ってるし交わりもしたひとりは、ノートル・ダームの塔の上から落ちる人を見たというので、ごく尊敬され感心されていた。ある者は、アンヴァリードの丸屋根につける彫像が一時置かれていた裏庭に忍び込んで、その鉛を少し「ちょろまかした」というので、ごく尊敬されていた。ある者は、駅馬車がひっくり返るのを見たというので、ごく尊敬されていた。またある者は、市民の目をほとんどえぐり出そうとしたひとりの兵士と「知り合いである」というので、ごく尊敬されていた。
パリーの一浮浪少年の次の嘆声、俗人がその意味をも解しないでただ笑い去ってしまう深い文句、それを以上のことは説明するものである。「ああああ[#「ああああ」に傍点]、いやになっちまう[#「いやになっちまう」に傍点]、まだ六階から落っこった者を見ないんだからな[#「まだ六階から落っこった者を見ないんだからな」に傍点]!」(この言葉は彼ら特有の発音で言われたのである)。
確かに次のようなのは田舎者《いなかもの》式のみごとな言葉である。「父《とっつ》あん、お前のお上さんは病気で死んだじゃないか。なぜお前は医者を呼びにやらなかったんだ?」「何を言わっしゃるだ、わしら貧乏人はな、人手を借りねえで死にますだ[#「人手を借りねえで死にますだ」に傍点]。」ところでもし田舎者の消極的な愚弄《ぐろう》が右の言葉のうちにこもってるとするならば、郭外の小僧の無政府的な自由思想は、確かに左の言葉のうちにこもってるであろう。すなわち、死刑囚が馬車の中で教誨師《きょうかいし》の言葉に耳を傾けていると、パリーの子供は叫ぶ。「あいつ牧師めと話をしてやがる[#「あいつ牧師めと話をしてやがる」に傍点]、卑怯《ひきょう》者だな[#「者だな」に傍点]!」
宗教上のことに対するある大胆さは、浮浪少年を高めるものである。唯我独尊ということが大事である。
死刑執行に立ち会うことは、一
前へ
次へ
全128ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング