いであろう。彼はそれを革命の名において過去に投げつける。人はそれを聞いて、巨人の古い魂がカンブロンヌのうちにあるのを認める。語るはダントンであり怒号するはクレベルであるかのようである。
 カンブロンヌの一言に、イギリス人の声は答えた、「打て!」砲列は火炎を発し、丘は震動し、それらのすべての青銅の口からは最後の恐ろしい霰弾《さんだん》の噴出がほとばしり、地平を出る月の光にほの白く見える広い煙はまき上がった。そして煙が散じた時には、そこにはもはや何物も残っていなかった。恐るべき残兵らは殲滅《せんめつ》されていた。近衛は全滅していた。生きたる角面|堡《ほ》の四壁はそこに横たわり、ただ死骸の間にそこここにあるうごめきがようやくに見らるるのみだった。かくのごとくして、ローマの軍団よりも偉大なフランスの近衛諸連隊は、雨と血潮とに湿った地上に、陰惨な麦畑の中に、モン・サン・ジャンにおいて消滅したのである。いまやその場所を、ニヴェルの郵便馬車を御しているジョゼフが、朝の四時に、口笛を吹きつつ愉快げに馬を鞭《むち》うって通るのである。

     十六 指揮官へは何程の報酬を与うべきか

 ワーテルロー
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