を求めてみようかとも彼は考えた。しかし、もしジャン・ヴァルジャンでなかったとしたら、あるいは年金所有の正直な老人でなかったとしたら、おそらくその男は、他の能力を隠すために特に施与をしているのであって、パリーの種々の隠密な悪事のあやのうちに深く賢く立ち交じっている悪漢であり、危険な仲間の首領であり、奸知《かんち》にたけた老人であるに違いない。手下や仲間の者があり、予備の住居があり、きっとその中に逃げ込むに違いない。方々の街路をぐるぐる回ってるところを見ても、尋常のじいさんとは思われない。あまり早く手を下すことは、「黄金の卵を生む牝鶏《めんどり》を殺す」のと同じである。しばらく待ったとて何の不都合があろう。もう取り逃がすことはないとジャヴェルは信じきっていた。
 それで彼はやや迷って、その謎《なぞ》のような人物に種々の疑問をかけながら、なおあとをつけていった。
 ところがかなり時期おくれてではあったが、ポントアーズ街を通りかかった時、ある居酒屋からさしていた明るい光によって、彼はまさしくジャン・ヴァルジャンの姿を見て取った。
 世には最も深い喜びにおどり上がる者が二つある。自分の子にめぐり
前へ 次へ
全571ページ中365ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング