こにきなすったかね。」
 ジャン・ヴァルジャンは、今自分はこの男から知られている、少なくともマドレーヌという名前で知られている、ということを感じて、こんどは用心してしか話を進めなかった。彼は種々なことを尋ねてみた。不思議にも役割が変わってしまったかのようだった。今や尋ねかけるのは闖入者《ちんにゅうしゃ》なる彼の方であった。
「いったい君が膝《ひざ》につけてる鈴は何かね。」
「これですか、」とフォーシュルヴァンは答えた、「これは人がよけるようにつけてるんですよ。」
「なんだって、人がよけるように?」
 フォーシュルヴァン老人は妙な瞬《まばたき》をした。
「なにね、この家には女ばかりきりいないんです。大勢の若い娘さんたちですよ。私と顔を合わすのが険呑《けんのん》だと見えましてね、鈴で知らしてやるんですよ。私が行くと、皆逃げていきます。」
「これはどういう家かね。」
「ええ! 御存じでしょうがね。」
「いや、知らないんだ。」
「私をここの庭番に世話して下すってながら!」
「まあ何にも知らないものとして教えてくれ。」
「それじゃあね、プティー・ピクプュスの修道院ですよ。」
 ジャン・ヴァルジャ
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