家はそれを摘要するの権利を持っている。しかし彼はその戦闘の主要な輪郭をつかみ得るのみである。そしてまた、いかに忠実なる叙述家といえども、戦いと称せらるるその恐るべき暗雲の形を完全に描き出すことはできないものである。
 以上のことは、いかなる大戦闘についても真実であるが、ことにワーテルローにはいっそう適用し得べきものである。
 さはあれ、午後になって、ある瞬間に至って、戦いの勢いは明らかになってきた。

     六 午後四時

 四時ごろには、イギリス軍は危険な状態にあった。オレンジ大侯は中央を指揮し、ヒルは右翼を、ピクトンは左翼を指揮していた。豪胆熱狂なオレンジ大侯はオランダ・ベルギーの連合兵に向かって叫んでいた「ナッソー[#「ナッソー」に傍点]! ブルンスウィック[#「ブルンスウィック」に傍点]! 断じて退くな[#「断じて退くな」に傍点]!」ヒルは弱ってウェリントンの方へよりかかってきた。ピクトンは戦死した。イギリス軍がフランス軍の第百五連隊の軍旗を奪ったと同時に、イギリス軍のピクトン将軍は弾丸に頭を貫かれて戦死を遂げたのだった。ウェリントンにとっては、戦いは二つの支持点を持ってい
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