やはりいつも、黄色いフロックと黒いズボンと古い帽子とを身につけていた。往来では貧乏人としか見えなかった。親切な女たちがふり向いて一スー銅貨をくれることもあった。ジャン・ヴァルジャンはその銅貨を受け取って、低く身をかがめた。また時には、慈悲を求めてる不幸な者に出会うこともあった。そういう時、彼はふり返ってだれか見てる者はないかをながめ、そっとそれに近寄り、その手に貨幣を、たいてい銀貨を、握らしてやって、足早に立ち去った。それは彼に不利なことだった。その一郭では、施しをする乞食[#「施しをする乞食」に傍点]という名前で彼は知られるようになった。
 借家主[#「借家主」に傍点]の婆さんは、至って無愛想で、近所の者のことを鵜《う》の目|鷹《たか》の目で探り回るような女だったが、ひそかにジャン・ヴァルジャンの様子をも探っていた。少し耳が遠くて、またそのために饒舌《おしゃべり》だった。歯は抜け落ちてしまって、ただ上と下とに一本ずつ残っていたが、それを始終かみ合わしていた。彼女はいろんなことをコゼットに尋ねた。しかしコゼットは、モンフェルメイュからきたのだということのほかは、何にも知らず、何にも語る
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