いた。自ら歩くことはできなかったが、走ることが好きだった。躄《いざり》なる彼は、好んで馬を急速に駆けさした。抜剣のうちに護《まも》られて、落ち着いたいかめしい顔をして通っていった。戸口には大きな百合《ゆり》の茎が描かれすっかり金箔《きんぱく》をかぶせられた、彼のどっしりした四輪箱馬車は、騒がしい音を立てて走った。ちらと見るまにもうそれは通りすぎていた。馬車の奥の右のすみに、白繻子《しろじゅす》でできてるボタンじめの褥《しとね》の上に、しっかりした大きな赤ら顔、王鳥式に新しく白粉《おしろい》をぬった額、高慢ないかつい鋭い目、文人のような微笑、市民服の上にゆらめいている綯総《よりふさ》の二つの大きな肩章、トアゾン・ドール章とサン・ルイ勲章とレジオン・ドンヌール勲章とサン・テスプリ騎士団の銀章、大きな腹、大きな青綬章、そういうものが見られた。それが王であった。パリーの外では、白い鳥の羽のついた帽子を、イギリスふうの大きなゲートルを巻いた膝頭《ひざがしら》にのせていたが、市内にはいってくると、その帽子を頭にかぶり、会釈もあまりしなかった。彼は冷然と人民をながめ、人民の方でも冷然と彼を見上げた。
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