、その訳のわからないしかし恐ろしい不思議な状態からのがれるために、彼女は大きい声で、一、二、三、四、と十まで数え初めた。そしてそれが終わるとまた初めからくり返した。そのために彼女はようやく周囲の事がらの本当のありさまを感ずることができた。水をくむ時にぬらした手に寒さを感じた。彼女は立ち上がった。するとまた恐ろしくなってきた。おさえることのできない自然の恐怖の念がまた襲ってきた。彼女はもうただ一つの考えきり持たなかった。逃げ出すこと。森を通りぬけ、野を横ぎり、人家のある所まで、窓のある所まで、火のともった蝋燭《ろうそく》のある所まで、足にまかして逃げのびること。前にある桶《おけ》が彼女の目についた。彼女は非常にテナルディエの上さんを恐《こわ》がっていたので、水の桶をすてて逃げ出すことはなしかねた。彼女は両手に桶の柄をつかんだ。そしてようやくのことでそれを持ち上げた。
そのようにして彼女は十歩余り進んだが、桶は水がいっぱいで重かったので、それをまた地面におろさなければならなかった。彼女はちょっと息をついた。それからまた桶を持ち上げて、再び歩き出したが、こんどは前よりも少し長く歩いた。けれ
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