の注意をひくに足るものであった。その悪漢は巧みに警察の目をのがれ、名前を変え、北部のある小都市で市長となるまでに成功した。彼はその都市にかなり顕著な一商業を興したのであった。しかし検察官の不撓《ふとう》なる熱心のために、彼はついに仮面をはがれて逮捕された。一人の醜業婦の妾《めかけ》があったが、彼が逮捕さるるとき驚きのあまり死んだ。悪漢は異常な膂力《りょりょく》を有していて脱走することを得たが、脱走後三、四日にして、警察は再びパリーにおいて彼を捕えた。ちょうど首府からモンフェルメイュ村(セーヌ・エ・オアーズ県)へ通う小馬車に乗った時においてであった。しかし彼はその三、四日の自由な間に、ある著名な銀行に預けていた莫大な金額を手にすることを得た由である。その金額は約六、七十万フランだという。告訴状によれば、彼はその金をだれにも知られぬひそかな場所に隠匿したらしい、そして何ぴともそれを見いだすことはできなかったそうである。それはともかくとして、そのジャン・ヴァルジャンなる者は最近ヴァール県の重罪裁判に回された。約八年前、大道にて子供をおびやかし、その所持品を盗んだという罪名によってである。子供
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