た。三百人の死体が投げ込まれた。おそらくあまりに急がれたであろう。投げ込まれた者は皆死んでいたかというと、口碑は否と答える。埋没の日の夜、かすかな呼ばわる声が井戸から聞こえたそうである。
 その井戸は中庭のまんなかに見捨てられている。石と煉瓦《れんが》とで半々にできている三つの壁が屏風《びょうぶ》の袖《そで》のように折り曲がって四角な櫓《やぐら》のような形をして、その三方を取り囲んでいる。ただ一方が開いている。水をくんでいたのはそこからである。奥の壁には一種のぶかっこうな丸窓みたようなものが一つある。たぶん砲弾の穴であろう。その櫓《やぐら》ようのものには屋根がついていたが、今はその桁構《けたがまえ》しか残っていない。右手の壁のささえの鉄は十字架の形をしている。身をかがめてのぞくと、目は煉瓦《れんが》の深い円筒の中に吸い込まれてしまう。そこにはいっぱい暗やみがたたえている。井戸のまわりや壁の下の方は、一面に蕁麻《いらくさ》におおわれている。
 井戸の前には、あらゆるベルギーの井戸の縁石をなしているあの大きい青い板石がない。その青い板石の代わりには一本の横木があって、大きな骸骨《がいこつ》
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