も無窮なるものに対しては何のかかわりがあろう? そのすべての暴風雨、そのすべての雲霧、その戦い、次にその平和、そのすべての影、それも広大なる日の輝きを一瞬たりとも乱すことはできなかった。その目の前においては、草の葉より葉へとはう油虫も、ノートル・ダーム寺院の塔の鐘楼より鐘楼へと飛ぶ鷲《わし》も、なんら選ぶところはないのである。

     十九 戦場の夜

 さて再びあの不運なる戦場に立ち戻ってみよう。実はそれがこの物語に必要なのである。
 一八一五年六月十八日の夜は満月であった。その月の光は、ブリューヘルの獰猛《どうもう》な追撃に便宜を与え、逃走兵のゆくえを照らし出し、その不幸な集団を熱狂せるプロシア騎兵の蹂躙《じゅうりん》にまかせ、虐殺を助長せしめた。大破滅のうちには往々にして、かかる悲愴《ひそう》な夜の助けを伴うものである。
 最後の砲撃がなされた後、モン・サン・ジャンの平原には人影もなかった。
 イギリス軍はフランス軍の陣営を占領した。敗者の床に眠ることは戦勝の慣例的なしるしである。彼らはロッソンムの彼方に露営を張った。プロシア軍は壊走者《かいそうしゃ》の後を追って前進を続けた
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