ぎていた。西の方に、ブレーヌ・ラルーの花びんを逆さにしたような石盤《スレート》屋根の鐘楼をながめた。ある丘の上の森を過ぎ、それから、ある別れ道の角に、旧関門第四号[#「旧関門第四号」に傍点]としるしてある虫の食った標柱の立ってる側にある、一軒の飲食店を通り過ぎた。その飲食店の正面には、「万人歓迎[#「万人歓迎」に傍点]、素人コーヒー店[#「素人コーヒー店」に傍点]、エシャボー[#「エシャボー」に傍点]」としるしてあった。
 その飲食店から約八分の一里ほどきたころ、彼はある小さな谷間の底に達した。街道の土堤《どて》の中に作られたアーチの下を、一条の水が流れていた。道の一方の谷間には一面に濃緑のまばらな木立ちがあったが、道の他方では遠く牧場の方までその木立ちがひろがって、ずっとブレーヌ・ラルーの方まで不規則に延びている様はいかにもみごとだった。
 そこに路傍の右手に一軒の宿屋があった。入り口には四輪の荷車があり、葎《ホップ》の茎の大きな束や、鋤《すき》や、生籬《いけがき》のそばに積んである乾草など、そして四角な穴には石灰がけむっており、藁戸《わらど》の古い納屋のそばにははしごが置いてあった
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