道院の寄宿生になるについて、そこの生徒服を着なければならなかった。ジャン・ヴァルジャンは[#「ジャン・ヴァルジャンは」は底本では「ジャンン・ヴァルジャンは」]彼女が脱ぎ捨てた着物をもらうことができた。それはテナルディエの飲食店を出る時彼が着せてやったあの喪服だった。まだそういたんではいなかった。ジャン・ヴァルジャンはその着物や毛糸の靴下や靴にまで、たくさんの樟脳《しょうのう》や修道院にいくらもある各種の香料などをふりかけて、どうにか手に入れた小さな鞄《かばん》の中に納めた。そしてそれを寝台のそばの椅子《いす》の上に置いて、いつもその鍵《かぎ》を身につけていた。コゼットはある日彼に尋ねた。「お父さん、あんなにいいにおいのするあの箱は、ほんとに何なの?」
 フォーシュルヴァン爺《じい》さんは、前に述べてきたとおりの自ら知らない光栄のほかに、なおいろいろその善行の報いを得た。第一には、心に喜びを感じていた。次には、仕事が二つに分けられるのでよほど楽になった。最後に、彼は非常に煙草《たばこ》が好きだったが、マドレーヌ氏がいるために、以前よりは三倍も多く吸うことができ、しかもマドレーヌ氏が金を払ってくれるので非常にうまく味わうことができた。
 修道女らは少しもユルティムという名前を使わず、ジャン・ヴァルジャンをいつもも一人のフォーヴァン[#「も一人のフォーヴァン」に傍点]と呼んでいた。

 もしその聖《きよ》い処女たちが、多少なりとジャヴェルのような目を持っていたならば、何か庭の手入れのために用達にゆくような場合に外に出かけるのは、年取って身体がきかなくて跛者である兄のフォーシュルヴァンの方であって、決して弟の方でないことを、ついには気づくに至ったであろう。しかし、あるいは絶えず神の方へばかり目を向けていて、他のことをさぐる暇がなかったのか、あるいはお互いの身の上にのみ目をつけることに特に忙しかったのか、いずれにしても彼女らはそのことに何らの注意も払わなかった。
 その上、いつも黙っていて引っ込んでいたことは、ジャン・ヴァルジャンにはいいことだった。ジャヴェルはその一郭を一カ月以上も見張っていたのである。
 その修道院は、ジャン・ヴァルジャンにとっては深淵《しんえん》にとりまかれた小島のようなものだった。その四壁の中だけが以後彼の世界だった。そこで彼は、気をさわやかにするくらいにはじゅうぶん空を見ることができ、心を楽しませるくらいにはじゅうぶんコゼットを見ることができた。
 きわめて穏やかな生活が再び彼に初まった。
 彼はフォーシュルヴァン老人とともに庭の奥の小屋に住んでいた。その陋屋《ろうおく》は土蔵造りであって、一八四五年にはなお残っていたが、読者の既に知るとおり、三つの室《へや》から成っていて、どの室もみな裸のままの露《あら》わな壁があるばかりだった。その一番いい室は、ジャン・ヴァルジャンがこばむにもかかわらず、マドレーヌ氏へとしてフォーシュルヴァンがむりに与えてしまった。その室の壁には、膝当《ひざあて》と負籠《おいかご》とをかける二つの釘《くぎ》のほかに、飾りとして一七九三年の王家の紙幣が、暖炉の上の方に壁にはってあった。その模写は次のとおりである。([#ここから割り注]訳者注 図中の文字も念のために訳出す[#ここで割り注終わり])
[#王家の紙幣の図、図省略]
[#ここから紙幣の文字の訳文]
  国王の名において
十リーヴル兌換券
 軍需品代として交付す
 平和確立とともに償還す
第三部 第一〇三九〇号
   ストフレー
  正教王党軍(欄外に)
[#ここで訳文終わり]
 このヴァンデアン党([#ここから割り注]訳者注 王党の一派にしてストフレーはその将軍[#ここで割り注終わり])の紙幣は、この前の庭番が壁に鋲《びょう》で留めたものだった。彼はもと王党のものであって、修道院で死に、その後にフォーシュルヴァンがきたのだった。
 ジャン・ヴァルジャンは毎日庭で働き、大変役に立った。彼は昔枝切り人だったので、今また喜んで園丁になったのである。読者はたぶん思い起こすであろうが、彼は栽培に関するあらゆる方法と奥義とに通じていた。彼はそれを役立たした。果樹園のほとんどすべての樹木は野生のままだったが、彼はそれに接芽《つぎめ》してりっぱな果実をならした。
 コゼットは毎日一時間ずつ彼のそばで過ごすことを許されていた。修道女らは陰気であり、彼は親切であったから、子供の彼女は両方を比べてみて彼をなつかしんでいた。きまった時間がくると、彼女は小屋の方へ走ってきた。そして彼女がはいって来ると、その破家《あばらや》も楽園となるのだった。ジャン・ヴァルジャンも喜びに輝き、コゼットに与える幸福によってまた自分の幸福も増してくるのを感じた。人に与える喜悦こ
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